内視鏡検査大腸癌
大腸がん予防に役立つ10の食習慣と生活改善ポイント

大腸がんの現状と予防の重要性
大腸がんは日本において最も罹患数の多いがんとなっています。年間15万人以上が診断され、5万3千人以上が命を落としている深刻な疾患です。私が消化器内視鏡専門医として日々診療する中でも、大腸がん患者さんは年々増加傾向にあることを実感しています。
特に注目すべきは、近年若年層の大腸がん患者が増えていることです。50歳未満の方でも全体の約10%を占めるようになり、決して他人事ではありません。
しかし、大腸がんは予防可能ながんでもあります。食生活や運動習慣などの生活習慣の改善によって、そのリスクを大幅に下げることができるのです。また、定期的な検診によって前がん病変であるポリープを早期に発見・除去することで、がんへの進行を防ぐことも可能です。
今回は、消化器内視鏡専門医として、科学的根拠に基づいた大腸がん予防に役立つ10の食習慣と生活改善ポイントをご紹介します。これらを日常生活に取り入れることで、大腸がんのリスクを効果的に減らしていきましょう。
大腸がんリスクを下げる食習慣5つ
大腸がんの発症には食生活が大きく関わっています。日々の食事を見直すことで、リスクを下げることができるのです。ここでは特に効果的な5つの食習慣をご紹介します。
1. 食物繊維を豊富に含む食品を積極的に摂取する
食物繊維は腸内環境を整え、発がん物質の排出を促進する重要な栄養素です。特に野菜、果物、全粒穀物、豆類に多く含まれています。
キャベツ、ブロッコリー、ニンジン、ほうれん草などの野菜や、リンゴ、バナナ、柑橘類などの果物を毎日の食事に取り入れましょう。また、玄米やオートミール、全粒パンなどの全粒穀物も効果的です。
研究によると、食物繊維を多く摂取している人は、摂取量が少ない人と比べて大腸がんのリスクが低いことが示されています。特に水溶性と不溶性の両方の食物繊維をバランスよく摂ることが重要です。
2. 発酵食品で腸内環境を整える
発酵食品には腸内の善玉菌を増やし、腸内フローラを整える効果があります。ヨーグルト、味噌、納豆、キムチなどの発酵食品を日常的に摂取することで、腸内環境を良好に保つことができます。
特に納豆は食物繊維と発酵食品の両方の良さを兼ね備えた食品です。苦手な方も多いかもしれませんが、工夫して食べる習慣をつけることをお勧めします。
腸内環境が悪化すると、腸内で発がん物質が生成されやすくなります。発酵食品を積極的に取り入れることで、腸内の善玉菌を増やし、大腸がんのリスクを下げることができるのです。
3. 赤身肉・加工肉の摂取を控える
牛肉や豚肉などの赤身肉や、ハム、ソーセージ、ベーコンなどの加工肉の過剰摂取は、大腸がんのリスクを高める可能性があります。これらの食品に含まれる化学物質や調理過程で生じる発がん性物質が原因と考えられています。
赤身肉は週に500g未満に抑え、加工肉はできるだけ控えるようにしましょう。代わりに魚や鶏肉、豆類などの植物性タンパク質を積極的に取り入れることをお勧めします。
4. カルシウムを十分に摂取する
カルシウムは骨の健康だけでなく、大腸がん予防にも効果があることが分かっています。牛乳や乳製品、小魚、緑黄色野菜などからカルシウムを積極的に摂取しましょう。
カルシウムは腸内で胆汁酸や脂肪酸と結合し、これらの物質が大腸粘膜を刺激するのを防ぐ効果があると考えられています。1日の推奨摂取量は成人で700〜800mgですが、意識して摂取しないと不足しがちな栄養素です。
5. アルコール摂取を適量に抑える
過度の飲酒は大腸がんのリスクを高めることが明らかになっています。アルコールの分解過程で生じるアセトアルデヒドには発がん性があり、腸内細菌のバランスを崩す原因にもなります。
お酒を楽しむ場合は、適量を心がけましょう。男性は1日平均純アルコール量で23g未満(ビール中瓶1本程度)、女性はさらに少なめにすることが望ましいです。できれば休肝日を設けるなど、飲酒習慣を見直すことも大切です。
生活習慣の改善で大腸がんリスクを下げる5つのポイント
食習慣に加えて、日常の生活習慣も大腸がんのリスクに大きく影響します。ここでは特に効果的な5つの生活改善ポイントをご紹介します。
1. 定期的な運動習慣を身につける
運動は大腸がん予防に非常に効果的です。適度な運動は腸の蠕動運動を活発にし、便通を改善します。また、免疫機能を高め、肥満を防ぐ効果もあります。
週に150分の中強度の有酸素運動(早歩き、サイクリング、水泳など)、または75分の高強度の運動(ジョギング、テニスなど)を目標にしましょう。毎日30分の散歩でも効果があります。
運動が苦手な方は、エレベーターやエスカレーターではなく階段を使う、一駅分歩くなど、日常生活の中で体を動かす機会を意識的に増やすことから始めてみましょう。
私の患者さんの中にも、定期的な運動を始めてから便通が改善し、大腸内視鏡検査の結果も良くなった方が多くいらっしゃいます。
2. 適正体重の維持
肥満、特に内臓脂肪の蓄積は大腸がんのリスクを高めることが分かっています。BMI(体格指数)が25以上の肥満状態になると、大腸がんのリスクが1.5倍以上になるというデータもあります。
適正体重を維持するためには、バランスの良い食事と定期的な運動が基本です。急激なダイエットは避け、長期的に続けられる健康的な生活習慣を身につけることが大切です。
特に中年以降は代謝が落ちてくるため、若い頃と同じ食事量では太りやすくなります。年齢に合わせた食事量の調整も必要です。
3. 禁煙する
喫煙は肺がんだけでなく、大腸がんを含む多くのがんのリスク因子です。タバコに含まれる有害物質が血液を通じて全身に運ばれ、大腸の粘膜にも悪影響を与えます。
喫煙者は非喫煙者に比べて大腸がんのリスクが約1.5倍高まることが分かっています。禁煙することで、このリスクは時間とともに低下していきます。
禁煙は簡単ではありませんが、禁煙外来など専門家のサポートを受けることで成功率が高まります。健康のために、ぜひ禁煙にチャレンジしてみてください。
4. 定期的な大腸がん検診を受ける
生活習慣の改善と並んで重要なのが、定期的な検診です。大腸がんは早期発見・早期治療で90%以上の確率で治すことができます。
40歳を過ぎたら年に1回の便潜血検査を受けることをお勧めします。便潜血検査で陽性となった場合や、家族に大腸がんの既往がある方は、大腸内視鏡検査を受けることが重要です。
大腸内視鏡検査は、前がん病変であるポリープを発見し、その場で切除することができる非常に有効な検査です。当院では「眠ってできる内視鏡検査」や「カスタマイズ腸内洗浄」など、患者さんの負担を軽減する工夫をしています。
「検査は怖い」「忙しくて時間がない」という理由で検診を先延ばしにしている方も多いですが、早期発見が何よりも重要です。ぜひ勇気を出して検診を受けてください。
5. ストレス管理と十分な睡眠
ストレスや睡眠不足は免疫機能を低下させ、間接的にがんのリスクを高める可能性があります。適切なストレス管理と質の良い睡眠は、全身の健康維持に欠かせません。
ストレス解消法は人それぞれですが、軽い運動、趣味の時間、深呼吸、瞑想などが効果的です。また、規則正しい生活リズムを保ち、7〜8時間の十分な睡眠を確保しましょう。
睡眠の質を高めるためには、就寝前のスマートフォンやパソコンの使用を控え、寝室を快適な環境に整えることも大切です。

若年層の大腸がん増加と予防の重要性
近年、50歳未満の若年層における大腸がんの発症が増加しています。これは世界的な傾向であり、特に日本でも注目すべき問題です。
若年層の大腸がん増加の背景には、食生活の欧米化や運動不足、肥満の増加などが考えられます。また、最近の研究では、腸内細菌から分泌されるコリバクチン毒素による影響も指摘されています。
国立がん研究センターの研究によると、日本人大腸がん患者の約5割に、腸内細菌由来のコリバクチン毒素による変異パターンが確認されており、特に若年者では高齢者と比べて3.3倍多く見られることが分かっています。
若い方でも、便の異常(血便、便潜血陽性、便通の変化など)や腹痛が続く場合は、早めに消化器専門医に相談することをお勧めします。「若いから大丈夫」という思い込みが、発見の遅れにつながることもあります。
まとめ:日常生活に取り入れやすい大腸がん予防習慣
大腸がんは生活習慣の改善によって予防できる可能性が高いがんです。ここでご紹介した10の食習慣と生活改善ポイントを日常生活に取り入れることで、大腸がんのリスクを下げることができます。
特に重要なのは以下の点です:
- 食物繊維を豊富に含む食品を積極的に摂取する
- 発酵食品で腸内環境を整える
- 赤身肉・加工肉の摂取を控える
- 定期的な運動習慣を身につける
- 適正体重を維持する
- 定期的な大腸がん検診を受ける
これらの習慣は、一度にすべてを完璧に実践する必要はありません。できることから少しずつ始めて、徐々に生活に取り入れていくことが大切です。
また、40歳を過ぎたら定期的な大腸がん検診を受けることも重要です。早期発見・早期治療が、大腸がんを克服する最も確実な方法です。
当院では、最新の内視鏡機器を用いた高精度な検査と、患者さんの負担を軽減する様々な工夫を行っています。大腸がん検診に関するご質問やご不安がありましたら、お気軽に浜野胃腸科外科までご相談ください。
あなたとご家族の健康を守るために、今日からできる予防習慣を始めてみませんか?
著者プロフィール
浜野 徹也(はまの てつや)
現職
浜野胃腸科外科医院 副院長(2015年就任)
東京女子医科大学八千代医療センター 内視鏡科 非常勤講師
東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科 非常勤医師
千葉県がんセンター 消化器内科 非常勤医師
研修・経歴
立川相互病院(初期研修)→東京女子医科大学八千代医療センター(総合救急診療科 → 内視鏡科)
その後、千葉県がんセンターなどで非常勤として消化器内視鏡診療に従事
専門・理念
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、
日本消化器病学会専門医、
日本内科学会認定医、
日本胆道学会認定指導医
「胃がん・大腸がんで亡くなる方をゼロにする」をミッションに掲げ、苦痛の少ない質の高い内視鏡検査の普及に努める
活動・社会貢献
20~30代を含む働き盛り世代や女性の大腸がん検診受診率向上にも注力。保育園との提携による検診の受診促進や、鎮静剤を用いた安心できる検査環境を提供
メッセージ
医師として「命を預かる責任」を、経営者としては「スタッフの生活を支える責任」を常に胸に刻み、「筋が通る人であり続ける」ことを信条に、日々成長を目指しています


