健康診断内視鏡検査生活習慣病
【医師監修】腹痛を伴う下痢の危険信号と受診のタイミング
腹痛を伴う下痢が教えてくれる体からのSOSサイン
「また腹痛と下痢が始まった…」
そう思いながらも、忙しさにかまけて我慢していませんか?腹痛を伴う下痢は、単なる一過性の不調ではなく、体からの重要なメッセージかもしれません。私は消化器専門医として、このような症状を訴える患者さんを日々診察していますが、適切なタイミングでの受診が重症化を防ぐ鍵になることを実感しています。
下痢と腹痛の組み合わせは、軽度の食あたりから命に関わる疾患まで、実に幅広い病態を示唆します。特に注意すべきは、これらの症状が「いつもと違う」と感じる場合です。
消化器内視鏡専門医として多くの患者さんを診てきた経験から言えることは、「様子を見よう」と長引かせてしまうケースが少なくないということです。特に危険なのは、重篤な疾患の初期症状と軽度の胃腸炎の症状が似ていることです。
では、どのような下痢と腹痛のパターンが危険信号なのでしょうか?いつ病院を受診すべきなのでしょうか?
下痢と腹痛の基本メカニズム〜なぜ同時に起こるのか
下痢と腹痛が同時に起こるメカニズムを理解することは、その重症度を判断する上で重要です。
腸は通常、規則正しい蠕動運動(ぜんどううんどう)によって内容物を運びます。しかし何らかの刺激により、この運動が過剰に亢進すると、腸内容物が十分に消化・吸収されないまま排出され、下痢として現れます。同時に、この異常な腸の収縮が腹痛を引き起こすのです。
下痢と腹痛を引き起こす主な原因としては、感染性腸炎(ウイルスや細菌による)、過敏性腸症候群、食物不耐症、炎症性腸疾患などが挙げられます。それぞれ症状の現れ方や持続時間、随伴症状が異なるため、これらを詳しく観察することが診断の手がかりになります。
特に注意が必要なのは、腹痛の性質です。鈍い痛みか鋭い痛みか、持続的か断続的か、痛みの場所は固定しているか移動するか、などの特徴は重要な診断情報となります。
たとえば、右下腹部に限局する痛みが次第に強くなる場合は急性虫垂炎の可能性があります。一方、お腹全体のけいれんのような痛みと水様性の下痢が同時に起こる場合は、感染性腸炎の可能性が高いでしょう。
あなたは腹痛と下痢を感じたとき、どのような対応をしていますか?
危険信号を見逃すな!受診が必要な腹痛と下痢の7つのサイン
腹痛と下痢の多くは自然に治まりますが、中には緊急の医療介入が必要なケースもあります。以下の7つの危険信号を覚えておきましょう。
1. 激しい腹痛や持続する強い痛み
我慢できないほどの激しい腹痛や、6時間以上持続する強い痛みは、腸閉塞や腹膜炎などの重篤な疾患の可能性があります。特に痛みが徐々に増強する場合や、体を動かすと痛みが悪化する場合は要注意です。
私の診療経験では、「痛みで夜眠れない」「痛みで歩けない」という症状を訴える患者さんの中に、緊急手術が必要だったケースが少なくありません。
2. 血便や黒色便
下痢に血液が混じる、あるいは黒色のタール状の便は消化管出血のサインです。鮮血が混じる場合は下部消化管からの出血、黒色便の場合は上部消化管からの出血を示唆します。いずれも早急な精査が必要です。
3. 発熱や悪寒を伴う場合
38℃以上の発熱や悪寒を伴う腹痛と下痢は、細菌性腸炎や虫垂炎など、感染症の可能性を示唆します。特に高齢者や免疫力が低下している方は重症化しやすいため、早めの受診が望ましいです。
4. 脱水症状
頻回の下痢による脱水は、特に小児や高齢者では危険です。口の渇き、尿量減少、めまい、立ちくらみなどの症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。
脱水症状は見過ごされがちですが、重症化すると入院治療が必要になることもあります。
5. 腹部の膨満感や硬さ
お腹が異常に膨らむ、または触ると硬い場合は、腸閉塞や腹膜炎の可能性があります。これらは緊急処置が必要な状態です。
6. 急激な体重減少
短期間での説明のつかない体重減少を伴う腹痛と下痢は、炎症性腸疾患や悪性腫瘍などの可能性があります。1ヶ月で5%以上の体重減少がある場合は要注意です。
7. 症状が2週間以上続く
腹痛と下痢が2週間以上続く場合は、慢性的な疾患の可能性があります。過敏性腸症候群、炎症性腸疾患、セリアック病などが考えられるため、専門医による精査が必要です。
これらの危険信号が一つでもあれば、自己判断せずに医療機関を受診することをお勧めします。
年齢・状況別の受診タイミング〜いつ病院に行くべきか
腹痛と下痢の症状に対する受診タイミングは、年齢や基礎疾患の有無によって異なります。ここでは状況別の目安をご紹介します。
乳幼児・小児の場合
小さなお子さんは脱水症状が急速に進行するため、特に注意が必要です。以下のような場合は早めに小児科を受診しましょう。
- 6時間以上の嘔吐や下痢が続く
- 38℃以上の発熱がある
- ぐったりしている、機嫌が悪い
- おしっこの回数が減る(6時間以上おむつが濡れない)
- 血便がある
特に生後3ヶ月未満の赤ちゃんは、症状が急速に悪化することがあるため、下痢や腹痛のサインがあればすぐに受診することをお勧めします。
高齢者の場合
高齢者は症状が典型的に現れないことがあり、また基礎疾患を持っていることも多いため、以下のような場合は早めに受診することをお勧めします。
- 24時間以上続く下痢
- 38℃以上の発熱
- 血便や黒色便
- めまいや立ちくらみがある
- 普段服用している薬(特に降圧剤や糖尿病薬)が飲めない
高齢者は脱水症状が重症化しやすく、また腹痛の原因となる重篤な疾患のリスクも高いため、症状が軽くても油断せず受診することが大切です。
基礎疾患がある方の場合
糖尿病、心疾患、腎疾患、免疫不全などの基礎疾患がある方は、腹痛と下痢によって基礎疾患が悪化するリスクがあります。以下のような場合は早めに受診しましょう。
- 24時間以上続く症状
- 普段の薬が服用できない
- 血糖値のコントロールが難しくなった(糖尿病の方)
- むくみや呼吸困難が出現した(心疾患・腎疾患の方)
基礎疾患がある方は、かかりつけ医に相談することをお勧めします。
一般成人の場合
健康な成人でも、以下のような場合は受診を検討してください。
- 3日以上続く症状
- 38℃以上の発熱
- 血便
- 激しい腹痛
- 脱水症状(めまい、極度の口渇、尿量減少)
特に、これまで経験したことがないような腹痛や下痢の場合は、自己判断せずに医療機関を受診することをお勧めします。
腹痛と下痢から考えられる主な疾患
腹痛と下痢を主訴とする疾患は多岐にわたります。ここでは代表的な疾患とその特徴を解説します。
感染性腸炎(ウイルス性・細菌性)
最も一般的な原因の一つです。ノロウイルスやロタウイルス、サルモネラ菌、カンピロバクターなどによる感染で発症します。
特徴的な症状は、突然の発症、水様性の下痢、腹部のけいれん痛、嘔吐、発熱などです。多くは1週間程度で自然軽快しますが、脱水に注意が必要です。
過敏性腸症候群(IBS)
腸の機能異常により、腹痛と便通異常(下痢または便秘、あるいはその交代)が慢性的に続く疾患です。
特徴的なのは、排便によって腹痛が軽減すること、ストレスや食事で症状が悪化することなどです。器質的な異常はなく、検査では異常が見つからないことが多いですが、生活の質を著しく低下させることがあります。
炎症性腸疾患(IBD)
潰瘍性大腸炎やクローン病などの慢性的な腸の炎症性疾患です。
血便、粘液便、持続する下痢、腹痛、体重減少、全身倦怠感などが特徴です。内視鏡検査で腸粘膜の炎症や潰瘍が確認されます。早期診断と適切な治療が重要です。
急性虫垂炎
虫垂の炎症により、初期はみぞおち周辺の痛みから始まり、次第に右下腹部に限局する痛みとなります。
吐き気、嘔吐、発熱を伴うことが多く、下痢が見られることもあります。進行すると腹膜炎を引き起こす可能性があり、早期の外科的処置が必要になることがあります。
胆石症・胆嚢炎
胆嚢内に形成された結石により、右上腹部から背中にかけての激痛、吐き気、嘔吐などが特徴です。
脂肪の多い食事の後に症状が悪化することが多く、時に下痢を伴います。超音波検査やCT検査で診断され、重症例では手術が必要になることもあります。
薬剤性腸炎
抗生物質や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの薬剤による腸粘膜の炎症です。
薬剤服用後に発症する下痢、腹痛が特徴です。原因薬剤の中止により改善することが多いですが、クロストリジウム・ディフィシル感染症などの重篤な合併症に注意が必要です。
腸閉塞
腸管の通過障害により、激しい腹痛、嘔吐、腹部膨満、排ガス・排便停止などが起こります。
初期には下痢が見られることもありますが、進行すると便秘になります。緊急処置が必要な状態で、放置すると腸管壊死や穿孔を引き起こす可能性があります。
これらの疾患は症状が似ていることも多く、正確な診断には医師による診察と適切な検査が必要です。自己判断は危険ですので、心配な症状がある場合は早めに医療機関を受診しましょう。
受診すべき診療科と検査内容〜何科に行けばいい?
腹痛と下痢の症状で受診する場合、どの診療科を選べばよいのでしょうか。また、どのような検査が行われるのでしょうか。
適切な診療科の選び方
基本的には、消化器内科(胃腸内科)または一般内科を受診するのが適切です。特に専門的な消化器内科がある医療機関であれば、より詳細な検査や診断が可能です。
夜間や休日で選択肢が限られている場合は、救急外来を受診してください。症状が重篤な場合(激しい腹痛、大量の血便、意識障害など)も、迷わず救急車を呼ぶことをお勧めします。
また、以下のような場合は他の診療科も考慮してください:
- 女性で下腹部痛が主体の場合:婦人科(子宮内膜症や卵巣嚢腫の可能性)
- 排尿時痛や頻尿を伴う場合:泌尿器科(尿路感染症の可能性)
- 小児の場合:小児科
迷った場合は、まずかかりつけ医に相談するのが良いでしょう。
診察・検査の流れ
腹痛と下痢の症状で受診した場合、以下のような診察・検査が行われます。
- 問診:症状の経過、部位、性質、食事内容、服薬歴、渡航歴などを詳しく聞かれます。
- 身体診察:腹部の視診、聴診、触診、打診を行い、圧痛の有無や腸音の異常などをチェックします。
- 血液検査:炎症反応(白血球数、CRP)、肝機能、腎機能、電解質、血糖値などを調べます。
- 便検査:便潜血、細菌培養、ウイルス検査などを行うことがあります。
- 画像検査:症状や所見に応じて、腹部エコー、CT、MRIなどの検査を行います。
- 内視鏡検査:症状が持続する場合や、血便がある場合などに、胃カメラや大腸カメラ検査を行うことがあります。
当院では、腹痛と下痢の症状に対して、まず超音波検査(エコー)を行うことが多いです。エコー検査は被ばくがなく、リアルタイムで観察できるため、初期スクリーニングとして有用です。
検査結果に基づいて診断が確定したら、適切な治療方針が提案されます。症状や疾患によっては、入院治療が必要になることもあります。
腹痛と下痢の自宅でのケア〜受診までにできること
医療機関を受診するまでの間、自宅でできるケアについてご紹介します。ただし、これらは一時的な対処法であり、危険信号がある場合は早急に医療機関を受診してください。
水分補給の重要性
下痢による脱水を防ぐため、こまめな水分補給が非常に重要です。常温の水やお茶を少量ずつ頻回に摂取しましょう。
経口補水液(OS-1など)があれば理想的です。なければ、水1リットルに対して砂糖大さじ4〜6杯、塩小さじ1/2を溶かした簡易的な補水液も効果的です。
カフェインや炭酸飲料、アルコールは腸を刺激するため避けましょう。
食事の工夫
急性期は胃腸を休めるため、一時的に絶食することも有効です。その後、症状が落ち着いてきたら、消化の良い食事から徐々に始めましょう。
- おかゆ、うどん、食パンなどの消化の良い炭水化物
- 茹でた野菜やスープ
- 脂肪の少ない肉(鶏むね肉など)
避けるべき食品:
- 脂肪の多い食品(揚げ物、ファストフードなど)
- 刺激物(辛いもの、香辛料)
- 乳製品(特に急性期)
- 食物繊維の多い野菜や果物(急性期)
安静にすること
体を休め、腸への負担を減らすことが大切です。横になって休み、腹部を温めると痛みが和らぐことがあります。
市販薬の適切な使用
市販の整腸剤や止痢薬は、軽度の症状には効果的なこともありますが、使用には注意が必要です。特に以下の場合は、自己判断での服用は控えてください。
- 高熱を伴う場合
- 血便がある場合
- 激しい腹痛がある場合
- 妊娠中または授乳中
- 他の薬を服用中
また、止痢薬の長期使用は避け、症状が改善しない場合は医療機関を受診しましょう。
私の臨床経験では、特に感染性腸炎の場合、無理に止痢薬で下痢を止めると、病原体が腸内に留まり症状が長引くことがあります。自然に排出させることも大切です。
まとめ:適切な判断で重症化を防ぐ
腹痛を伴う下痢は、多くの場合は一過性のものですが、時に重篤な疾患のサインであることもあります。適切なタイミングでの受診が、重症化を防ぐ鍵となります。
今回ご紹介した7つの危険信号や年齢・状況別の受診タイミングを参考に、「様子を見よう」と長引かせすぎないようにしましょう。特に高齢者や基礎疾患のある方、小さなお子さんは注意が必要です。
また、受診までの自宅でのケアとして、適切な水分補給と消化の良い食事を心がけ、安静にすることが大切です。市販薬の使用は慎重に判断しましょう。
消化器専門医として強調したいのは、「いつもと違う」と感じる症状は、体からの重要なメッセージだということです。その声に耳を傾け、必要な時には躊躇せず医療機関を受診してください。
当院では、腹痛や下痢などの消化器症状に対して、超音波検査や内視鏡検査などを用いた専門的な診療を行っています。お困りの症状がございましたら、お気軽にご相談ください。
健康な腸は、健康な体の基本です。日頃からバランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけ、腸内環境を整えることが予防につながります。
腹痛と下痢でお悩みの方の一助となれば幸いです。
浜野胃腸科外科 では、消化器症状でお悩みの方に対して、専門的な診療を提供しています。お気軽にご相談ください。
著者プロフィール
浜野 徹也(はまの てつや)
現職
浜野胃腸科外科医院 副院長(2015年就任)
東京女子医科大学八千代医療センター 内視鏡科 非常勤講師
東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科 非常勤医師
千葉県がんセンター 消化器内科 非常勤医師
研修・経歴
立川相互病院(初期研修)→東京女子医科大学八千代医療センター(総合救急診療科 → 内視鏡科)
その後、千葉県がんセンターなどで非常勤として消化器内視鏡診療に従事
専門・理念
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本消化器病学会専門医
日本内科学会認定医、
日本胆道学会認定指導医
「胃がん・大腸がんで亡くなる方をゼロにする」をミッションに掲げ、苦痛の少ない質の高い内視鏡検査の普及に努める
活動・社会貢献
20~30代を含む働き盛り世代や女性の大腸がん検診受診率向上にも注力。保育園との提携による検診の受診促進や、鎮静剤を用いた安心できる検査環境を提供
メッセージ
医師として「命を預かる責任」を、経営者としては「スタッフの生活を支える責任」を常に胸に刻み、「筋が通る人であり続ける」ことを信条に、日々成長を目指しています


