内視鏡検査大腸癌
大腸がん早期発見のために知っておくべき症状と検査〜消化器専門医の警告

大腸がんは日本人がかかるがんの中で最も患者数が多く、死亡数も男女合計で2位を占めています。しかし、早期に発見できれば治療効果が高く、完治も十分期待できるがんでもあります。
私は消化器内視鏡専門医として、毎年多くの大腸がん患者さんを診ていますが、早期発見できた方とそうでない方では、その後の人生が大きく変わることを実感しています。
残念ながら、初期の大腸がんはほとんど症状がなく、気づいたときには進行していることも少なくありません。だからこそ、定期的な検診と、わずかな変化にも注意を払うことが重要なのです。
大腸がんの現状と早期発見の重要性
大腸がんは近年、日本人の間で急増しています。国立がん研究センターのデータによると、年間約15万人が大腸がんと診断され、その数は年々増加傾向にあります。
大腸は長さが1.5〜2mほどの臓器で、結腸と直腸に大きく分けられます。日本人の場合、S状結腸や直腸など肛門に近い部位にがんができやすいといわれています。
大腸がんが増えている背景には、食生活の欧米化があります。牛肉や豚肉、加工肉(ハム、ソーセージなど)の過剰摂取は大腸がんのリスク因子とされています。また、大量の飲酒や運動不足などの生活習慣も大腸がんのリスクを高めます。
早期発見が何より重要なのは、大腸がんのステージによって生存率が大きく異なるからです。早期であれば5年生存率は90%以上ですが、進行すると50%以下に低下してしまいます。
では、どうすれば早期発見できるのでしょうか?
大腸がんで現れる主な症状
大腸がんの初期段階では、ほとんど自覚症状がありません。これが早期発見を難しくしている大きな理由です。
しかし、がんがある程度大きくなると、いくつかの症状が現れるようになります。これらの症状に気づくことが、早期発見の第一歩となります。
血便・下血
大腸がんで最も多く見られる症状が、血便や下血です。便に血が混じる、トイレットペーパーに血がつく、便器に血が付着するなどの症状があれば要注意です。
ただし、これらの症状は痔でも起こるため、「痔だから大丈夫」と自己判断せず、必ず医療機関を受診してください。
特に40歳を過ぎて初めて血便を経験した場合は、大腸がんの可能性を考える必要があります。
便通の異常
便秘と下痢を繰り返す、便が細くなる、便が残る感じがする(残便感)、便の形状が変わったなど、便通の変化も大腸がんの重要な兆候です。
これらの症状は、がんによって腸の内腔が狭くなることで起こります。特に便が鉛筆のように細くなる症状は、直腸がんの可能性を示唆します。
腹部症状
おなかが張る、腹痛がある、おなかにしこりを感じるといった症状も現れることがあります。
ただし、これらの症状は大腸がんがかなり進行してから現れることが多いため、これらの症状が出る前に検診で発見することが理想的です。
全身症状
体重減少、貧血、全身倦怠感などの全身症状も、進行した大腸がんでは見られます。特に原因不明の貧血がある場合は、消化管からの慢性的な出血を疑う必要があります。
症状の現れ方は、がんができた場所によっても異なります。右側の結腸(盲腸、上行結腸、横行結腸)にできたがんでは症状が現れにくく、左側の結腸(下行結腸、S状結腸)や直腸にできたがんでは、血便や便通異常などの症状が現れやすい傾向があります。
大腸がんを早期発見するための検査
大腸がんを早期に発見するためには、定期的な検査が欠かせません。症状がなくても40歳を過ぎたら、年に1回は大腸がん検診を受けることをお勧めします。
便潜血検査
便潜血検査は、便に血液が混じっているかを調べる検査です。目に見えない微量の血液も検出できるため、早期の大腸がんを発見するのに役立ちます。
市区町村が実施する大腸がん検診では、この便潜血検査が一次検診として行われています。2日分の便を採取して検査するのが一般的です。
便潜血検査は簡便で負担が少なく、費用も安価です。多くの自治体では40歳以上の方を対象に、500〜600円程度の自己負担で受けられます。
ただし、便潜血検査で「陽性」と判定されても、それはあくまで「血が混じっている可能性がある」ということであり、必ずしも大腸がんであるとは限りません。痔や大腸ポリープ、大腸炎などでも陽性になることがあります。
大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
便潜血検査で陽性となった場合や、血便などの症状がある場合は、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)による精密検査が必要です。
大腸内視鏡検査は、内視鏡を肛門から挿入して大腸内部を直接観察する検査です。大腸がんやポリープを直接目で見て確認できるため、最も確実な検査方法といえます。

検査当日は朝から食事を控え、前日から下剤を服用して腸内をきれいにする必要があります。検査自体は15〜30分程度で終わります。
内視鏡検査で病変が見つかった場合は、その場で組織を採取して病理検査を行うことができます。また、小さなポリープであれば、その場で切除することも可能です。
当院では、患者さんの不安を軽減するために、眠ってできる内視鏡検査や、女性医師による女性患者向けの内視鏡検査など、さまざまな工夫を行っています。
大腸CT検査
大腸CT検査(CT colonography)は、CTスキャンを使って大腸の内部を調べる検査です。内視鏡を挿入しないため、内視鏡検査に比べて身体的負担が少ないのが特徴です。
ただし、この検査でも前日からの腸管洗浄が必要です。また、病変が見つかった場合は、やはり内視鏡検査が必要になります。
大腸がんのリスクを高める要因
大腸がんのリスクを高める要因を知ることは、予防や早期発見につながります。特にリスクが高い方は、より積極的に検診を受けることをお勧めします。
食生活と生活習慣
食生活の欧米化が大腸がんの増加に関連しています。特に以下の要因がリスクを高めることが知られています。
- 赤肉(牛肉・豚肉)や加工肉(ハム・ソーセージなど)の過剰摂取
- 野菜や果物の摂取不足
- 大量の飲酒
- 運動不足
- 肥満
逆に、食物繊維を多く含む食品や、魚、緑黄色野菜を積極的に摂ることは、大腸がんの予防に役立つと考えられています。
年齢と家族歴
年齢が上がるにつれて大腸がんのリスクは高まります。特に40代以降から発症率が上昇し始め、60代でピークを迎えます。
また、家族に大腸がんにかかった人がいる場合、そうでない人に比べてリスクが高くなります。特に、第一度近親者(親、兄弟姉妹、子)に大腸がんの患者がいる場合は、通常の2〜3倍のリスクがあるとされています。
既往歴
大腸にポリープがある方は、大腸がんのリスクが高くなります。ポリープの中でも、腺腫と呼ばれるタイプは、時間の経過とともにがん化する可能性があります。
また、潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患を長期間患っている方も、大腸がんのリスクが高まります。
さらに、糖尿病や肥満も大腸がんのリスク因子として知られています。
大腸がん早期発見のための具体的な対策
大腸がんを早期に発見するためには、どのような対策が効果的なのでしょうか。消化器専門医として、具体的な対策をお伝えします。
40歳からの定期検診
40歳を過ぎたら、症状がなくても年に1回は大腸がん検診を受けることをお勧めします。まずは便潜血検査から始め、陽性であれば内視鏡検査を受けましょう。
市区町村が実施する大腸がん検診は、費用も安く受けやすいのでぜひ活用してください。職場の健康診断でも便潜血検査が含まれていることが多いです。
特にリスク要因を持つ方は、より積極的に検診を受けることが重要です。
症状があればすぐに受診
血便や便通異常などの症状がある場合は、「様子を見よう」と先延ばしにせず、早めに消化器内科や肛門科を受診してください。
「痔だから」と自己判断せず、一度は専門医に診てもらうことをお勧めします。特に40歳以上で初めて血便が出た場合は要注意です。
生活習慣の改善
大腸がんのリスクを下げるためには、生活習慣の改善も重要です。
- 赤肉や加工肉の摂取を控えめにする
- 野菜や果物、食物繊維を多く摂る
- 適度な運動を心がける
- 適正体重を維持する
- 飲酒は適量にとどめる
これらの生活習慣は、大腸がんだけでなく、他の生活習慣病の予防にも役立ちます。
まとめ〜早期発見が大腸がんを克服する鍵
大腸がんは早期に発見できれば、90%以上の確率で治すことができます。しかし、初期症状がほとんどないため、定期的な検診が何よりも重要です。
40歳を過ぎたら年に1回の便潜血検査を習慣にし、陽性であれば必ず内視鏡検査を受けましょう。また、血便や便通異常などの症状があれば、早めに専門医に相談してください。
大腸がんは、早期発見・早期治療によって克服できるがんです。定期的な検診と健康的な生活習慣で、大腸がんのリスクを減らしていきましょう。
当院では、患者さんの不安を軽減するためのさまざまな工夫を行いながら、質の高い内視鏡検査を提供しています。大腸がん検診や内視鏡検査についてご不安やご質問がありましたら、お気軽にご相談ください。
あなたの命を守るための第一歩は、定期的な検診から始まります。
詳しい情報や検査のご予約は、浜野胃腸科外科医院までお問い合わせください。
著者プロフィール
浜野 徹也(はまの てつや)
現職
浜野胃腸科外科医院 副院長(2015年就任)
東京女子医科大学八千代医療センター 内視鏡科 非常勤講師
東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科 非常勤医師
千葉県がんセンター 消化器内科 非常勤医師
研修・経歴
立川相互病院(初期研修)→東京女子医科大学八千代医療センター(総合救急診療科 → 内視鏡科)
その後、千葉県がんセンターなどで非常勤として消化器内視鏡診療に従事
専門・理念
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本消化器病学会専門医
日本内科学会認定医、
日本胆道学会認定指導医
「胃がん・大腸がんで亡くなる方をゼロにする」をミッションに掲げ、苦痛の少ない質の高い内視鏡検査の普及に努める
活動・社会貢献
20~30代を含む働き盛り世代や女性の大腸がん検診受診率向上にも注力。保育園との提携による検診の受診促進や、鎮静剤を用いた安心できる検査環境を提供
メッセージ
医師として「命を預かる責任」を、経営者としては「スタッフの生活を支える責任」を常に胸に刻み、「筋が通る人であり続ける」ことを信条に、日々成長を目指しています


