内視鏡検査大腸癌
大腸がん予防に効果的な食事法と腸内環境改善のポイント

大腸がんの現状と予防の重要性
大腸がんは現在、日本において最も罹患率の高いがんとなっています。2020年には年間罹患者数が14万人を超え、死亡数も年間53,000人以上と、保健衛生上非常に重要な疾患です。
私が消化器内視鏡専門医として日々診療する中で、多くの患者さんが「どうすれば大腸がんを予防できるのか」と質問されます。
大腸がんの発生には、食事をはじめとする生活習慣が深く関わっていることが明らかになっています。欧米型食生活の浸透、運動不足、腸内環境の乱れなど、様々な要因が複雑に絡み合っているのです。
特に注目すべきは、大腸がんは早期発見・早期治療によって根治が期待できる病気だということ。さらに、適切な予防策を講じることで、発症リスクを大幅に下げることも可能なのです。
今回は、消化器内視鏡専門医として、大腸がん予防のための効果的な食事法と腸内環境の改善方法について詳しくお伝えします。日々の食生活を少し見直すだけで、大腸がんのリスクを下げることができるのです。
大腸がんと食生活の深い関係
大腸がんの発症には、毎日の食生活が大きく影響しています。特に注目すべきは、日本人の食生活の欧米化に伴い、大腸がんの罹患率が増加している点です。
私の臨床経験からも、食事内容と大腸がんの関連性は明らかです。高脂肪・低食物繊維の食事、赤身肉や加工肉の過剰摂取、過度なアルコール摂取、不規則な食生活などが、大腸がんのリスクを高める要因となっています。
特に警戒すべきなのは、ハム・ソーセージ・ベーコンなどの加工肉や牛・豚・羊などの赤肉の過剰摂取です。世界保健機関(WHO)の国際がん研究機関は、加工肉を「発がん性あり」、赤肉を「おそらく発がん性あり」と分類しています。
一方で、野菜や果物、全粒穀物などの食物繊維を多く含む食品は、大腸がんのリスクを低減することが研究で示されています。食物繊維は腸内で発がん物質を吸着し、便として排出する働きがあるのです。
では、具体的にどのような食事が大腸がん予防に効果的なのでしょうか?
大腸がん予防に効果的な食品
大腸がん予防に効果的な食品として、まず挙げられるのが食物繊維を豊富に含む食品です。食物繊維には水溶性と不溶性の2種類があり、どちらも腸内環境の改善に重要な役割を果たします。
水溶性食物繊維は、海藻、果物、オートミール、ゴボウなどに多く含まれ、腸内の善玉菌のエサとなって短鎖脂肪酸(酪酸など)の産生を促します。この短鎖脂肪酸が腸の粘膜を保護し、免疫を活性化する効果があるのです。
不溶性食物繊維は、玄米、全粒パン、キャベツ、ブロッコリーなどに多く含まれ、便のかさを増やして腸の蠕動運動を促進し、便通を改善します。
次に重要なのが発酵食品です。ヨーグルト、納豆、味噌、キムチなどの発酵食品には、腸内の善玉菌を増やし、腸内フローラを整える効果があります。
特に注目すべきは、最近の研究で明らかになった「アッカーマンシア菌」や「ビフィズス菌」などの善玉菌の重要性です。これらの菌は、免疫機能を高める効果があり、がん治療の効果にも影響を与える可能性が示されています。
また、カルシウムを多く含む牛乳・乳製品も大腸がん予防に効果的です。カルシウムは腸内で胆汁酸と結合し、発がん物質の生成を抑制する働きがあります。
避けるべき食品と摂取量の目安
大腸がんのリスクを高める可能性のある食品としては、加工肉(ハム、ソーセージ、ベーコンなど)、赤身肉(牛肉、豚肉、羊肉など)、高脂肪食品、過剰なアルコールなどが挙げられます。
加工肉については、週に500g以下に抑えることが推奨されています。赤身肉も同様に、週に500g程度を目安にするとよいでしょう。
アルコールについては、男性は1日20g程度(ビール中瓶1本、日本酒1合程度)、女性はその半分程度に抑えることが望ましいとされています。
もちろん、これらの食品を完全に避ける必要はありません。大切なのはバランスです。加工肉や赤身肉を食べる日には、食物繊維を多く含む野菜や果物も一緒に摂るようにしましょう。
腸内環境と大腸がんの密接な関係
腸内環境と大腸がんの関係については、近年の研究で次々と新たな発見がなされています。私たちの腸内には約40兆個もの細菌が存在し、その総重量は1〜1.5kgにもなるといわれています。
この腸内細菌叢(腸内フローラ)の乱れが、大腸がんをはじめとする様々な疾患と関連していることが明らかになってきました。
特に注目すべきは、2025年に発表された国立がん研究センターの研究結果です。日本人大腸がん患者の約5割に、腸内細菌から分泌される「コリバクチン毒素」による特徴的な変異パターンが存在することが明らかになりました。
さらに驚くべきことに、このコリバクチン毒素による変異パターンは、高齢者よりも若年者(50歳未満)の大腸がん患者に3倍も多く見られたのです。これは、日本で増加している若年者大腸がんの重要な発症要因である可能性を示唆しています。
腸内環境が悪化すると、腸内で発がん物質が生成されやすくなります。特に、食物繊維の摂取不足や偏った食生活、抗生物質の過剰使用などが腸内環境の悪化を招く要因となります。
一方、腸内環境を整えることで、大腸がんのリスクを低減できる可能性があります。腸内の善玉菌を増やし、腸の健康を維持することが大腸がん予防の鍵となるのです。
あなたは自分の腸内環境がどのような状態か、考えたことはありますか?
腸内細菌と免疫機能の関係
腸は単なる消化器官ではなく、私たちの免疫細胞の約70%が腸に存在する「最大の免疫器官」でもあります。腸管粘膜に存在するパイエル板と呼ばれる免疫組織や、IgA抗体、T細胞、樹状細胞などが、日々食事や腸内細菌と接触しながら体の免疫バランスを調整しています。
特に注目すべきは、腸内細菌と免疫機能の密接な関係です。2025年7月に発表された国立がん研究センターの研究では、特定の腸内細菌(YB328株)が腸内で免疫応答の司令塔である樹状細胞を活性化し、その樹状細胞ががん組織まで移動することで免疫効果を発揮することが明らかになりました。
この研究は、腸内細菌が腸から離れた臓器に存在するがんの免疫環境に影響を及ぼす仕組みを世界で初めて可視化したものであり、腸内環境の重要性を示す画期的な成果です。
腸内環境が整っていると、免疫機能が正常に働き、がん細胞の早期発見・排除が促進されます。逆に、腸内環境が乱れると、免疫機能が低下し、がん細胞の増殖を許してしまう可能性があるのです。
腸内環境を改善する具体的な方法
腸内環境を改善するためには、以下のような方法が効果的です。
まず、食物繊維を積極的に摂取することが重要です。食物繊維は腸内細菌の「エサ」となり、善玉菌の増殖を促します。野菜、果物、全粒穀物、豆類などを意識的に食事に取り入れましょう。
次に、発酵食品を日常的に摂取することです。ヨーグルト、納豆、味噌、キムチなどの発酵食品は、腸内の善玉菌を増やし、腸内フローラの多様性を維持するのに役立ちます。特に日本人に合った伝統的な発酵食品は、腸にやさしい選択です。
また、過剰な抗生物質の使用を避けることも重要です。抗生物質は善玉菌も殺してしまうため、使用は必要最低限にとどめ、使用後は腸内環境の回復を意識しましょう。
さらに、適度な運動も腸内環境の改善に効果的です。運動は腸の蠕動運動を促進し、便通を改善する効果があります。ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を週に3回以上、30分程度行うことを目標にしましょう。
大腸がん予防のための生活習慣改善
大腸がんの予防には、食事だけでなく、総合的な生活習慣の改善が重要です。ここでは、食事以外の面から大腸がん予防に効果的な生活習慣について考えてみましょう。
まず挙げられるのが、運動習慣です。大腸がんは運動による予防効果が期待できるがんの一つです。適度な運動は、腸の蠕動運動を促進し、便通を改善するだけでなく、免疫機能の向上や肥満防止にも効果があります。
運動不足になると、食べたものが消化されて便として排出されるまでの時間(大腸通過時間)が長くなります。その結果、便が腸内に滞留する時間が長引き、大腸で便の水分が必要以上に吸収されて硬くなり、排出しにくくなるという悪循環に陥ります。
どのような運動が効果的なのでしょうか? ウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳などの有酸素運動が特に推奨されます。1日30分程度、週に3回以上の運動を目標にしましょう。
激しい運動である必要はありません。エレベーターやエスカレーターではなく階段を使う、一駅分歩く、こまめに立ち上がって体を動かすなど、日常生活の中で意識的に体を動かす機会を増やすことも効果的です。
運動が苦手な方でも、続けられる範囲で少しずつ始めることが大切です。無理なく続けられる運動習慣を見つけましょう。
ストレス管理と睡眠の質
ストレスと睡眠も、腸内環境に大きな影響を与えます。過度なストレスは自律神経のバランスを崩し、腸の動きを抑制して便秘を引き起こしやすくなります。
腸の働きは、私たちの意識とは無関係に、自律神経によってコントロールされています。自律神経には、体を活動的にする交感神経と、リラックスさせる副交感神経があり、腸の蠕動運動は主に副交感神経が優位なときに活発化します。
ストレスが溜まると交感神経が優位になり、腸の動きが抑制されます。そのため、ストレス管理は腸内環境の改善にとって重要な要素なのです。
また、質の良い睡眠も腸内環境の維持に欠かせません。睡眠不足や不規則な睡眠は、腸内細菌のバランスを崩す可能性があります。7〜8時間の十分な睡眠と規則正しい生活リズムを心がけましょう。
ストレス解消法としては、深呼吸、瞑想、ヨガ、趣味の時間を持つなど、自分に合った方法を見つけることが大切です。
定期的な検診の重要性
大腸がんは早期発見・早期治療によって根治が期待できるがんです。そのためには、定期的な検診が欠かせません。
40歳を過ぎたら年に1回、便潜血検査を受けることをお勧めします。便潜血検査で陽性反応が出た場合や、家族に大腸がんの既往歴がある方、腹痛や便通異常などの症状がある方は、大腸内視鏡検査(大腸カメラ)を受けることが重要です。
大腸内視鏡検査は、大腸がんの早期発見だけでなく、前がん病変である大腸ポリープを発見し、その場で切除することができるため、大腸がんの予防にも効果的です。
私の臨床経験からも、定期的な検診によって多くの早期大腸がんやポリープを発見し、治療することができています。2024年の当院の実績では、大腸内視鏡検査1,884件を実施し、54名の大腸がんを発見しました。
「検査は怖い」「忙しくて時間がない」という理由で検診を先延ばしにしていませんか? 現在は、鎮静剤を使用した「眠ってできる内視鏡検査」や、下剤の種類や飲み方をカスタマイズできるなど、患者さんの負担を軽減する工夫がなされています。

大腸がん予防のための実践的な食事プラン
ここまで大腸がん予防に効果的な食事や生活習慣について説明してきましたが、実際にどのような食事を心がければよいのでしょうか。ここでは、日常生活に取り入れやすい実践的な食事プランをご紹介します。
大腸がん予防の食事の基本は、「食物繊維を多く摂取する」「発酵食品を取り入れる」「加工肉や赤身肉を控えめにする」「バランスの良い食事を心がける」の4点です。
朝食では、ヨーグルトに果物やナッツを加えたものや、全粒粉のパン、オートミールなどがおすすめです。ヨーグルトは腸内の善玉菌を増やし、果物や全粒粉の食品は食物繊維を豊富に含んでいます。
昼食と夕食では、主食・主菜・副菜をバランスよく組み合わせることが大切です。主食は白米だけでなく、玄米や雑穀米を取り入れると食物繊維の摂取量が増えます。主菜は魚や鶏肉、豆腐などのたんぱく質源を中心に、赤身肉は週に2〜3回程度に抑えましょう。副菜は季節の野菜をたっぷり使い、調理法も茹でる、蒸す、生で食べるなど様々な方法を取り入れると栄養素の偏りを防げます。
間食には、果物やナッツ類がおすすめです。特にナッツ類には良質な脂質や食物繊維が含まれています。
具体的な1日の食事例を見てみましょう。
1日の食事例
朝食:プレーンヨーグルトにバナナ、ブルーベリー、くるみを加えたもの。全粒粉のトースト1枚に、アボカドを塗ったもの。緑茶。
昼食:玄米と雑穀のおにぎり2個。具沢山の味噌汁(わかめ、豆腐、ねぎ、しいたけなど)。小鉢に温野菜のサラダ(ブロッコリー、にんじん、かぼちゃなど)。
間食:りんご1個またはミックスナッツ(アーモンド、くるみ、カシューナッツなど)小さじ2。
夕食:雑穀入り玄米ご飯。焼き魚または蒸し鶏。季節の野菜の煮物。海藻サラダ。小鉢に納豆または漬物。
このような食事を基本としながら、時には好きなものも楽しむというバランスが大切です。完全に制限するのではなく、全体のバランスを考えながら食事を楽しむことが、長続きのコツです。
また、料理の工夫として、以下のようなポイントも参考にしてみてください。
・野菜は先に食べる(食物繊維を先に摂ることで、その後の糖質や脂質の吸収を緩やかにする効果があります)
・よく噛んで食べる(唾液の消化酵素の働きを高め、腸への負担を減らします)
・腸内環境を整える調味料を使う(酢、醤油麹、塩麹など発酵調味料を活用する)
・加工肉を使う場合は野菜と一緒に調理する(食物繊維が発がん物質を吸着する効果が期待できます)
日本の伝統的な食事は、実は大腸がん予防に適した要素が多く含まれています。発酵食品を多用し、魚や大豆製品を中心としたタンパク源、多様な野菜を取り入れた和食は、腸内環境を整えるのに理想的な食事と言えるでしょう。
まとめ:大腸がん予防は日々の小さな習慣から
大腸がん予防に効果的な食事法と腸内環境改善のポイントについて、様々な角度から解説してきました。最後に、重要なポイントをまとめておきましょう。
大腸がんの予防には、以下の4つの柱が重要です。
1. 食物繊維を豊富に含む食品を積極的に摂取する
野菜、果物、全粒穀物、豆類などを意識的に食事に取り入れましょう。食物繊維は腸内で発がん物質を吸着し、便として排出する働きがあります。
2. 発酵食品を日常的に摂取する
ヨーグルト、納豆、味噌、キムチなどの発酵食品は、腸内の善玉菌を増やし、腸内フローラの多様性を維持するのに役立ちます。
3. 加工肉や赤身肉の摂取を控えめにする
ハム、ソーセージ、ベーコンなどの加工肉や牛肉、豚肉、羊肉などの赤身肉は、週に500g以下に抑えることが推奨されています。
4. 適度な運動と規則正しい生活習慣を心がける
運動は腸の蠕動運動を促進し、便通を改善する効果があります。また、質の良い睡眠とストレス管理も腸内環境の維持に重要です。
そして何より大切なのは、定期的な検診です。40歳を過ぎたら年に1回、便潜血検査を受け、必要に応じて大腸内視鏡検査を受けることをお勧めします。
大腸がんは早期発見・早期治療によって根治が期待できるがんです。また、適切な予防策を講じることで、発症リスクを大幅に下げることも可能です。
日々の小さな習慣の積み重ねが、あなたの健康を守ります。今日からできることから始めてみませんか?
当院では、大腸がんの早期発見を目的とした大腸カメラ検査を実施しています。最新の内視鏡機器を導入し、苦痛の少ない検査を提供しており、鎮静剤を使用することでリラックスした状態で受診できます。検査に関するご質問やご相談は、お気軽に浜野胃腸科外科までお問い合わせください。
著者プロフィール
浜野 徹也(はまの てつや)
現職
浜野胃腸科外科医院 副院長(2015年就任)
東京女子医科大学八千代医療センター 内視鏡科 非常勤講師
東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科 非常勤医師
千葉県がんセンター 消化器内科 非常勤医師
研修・経歴
立川相互病院(初期研修)→東京女子医科大学八千代医療センター(総合救急診療科 → 内視鏡科)
その後、千葉県がんセンターなどで非常勤として消化器内視鏡診療に従事
専門・理念
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、
日本消化器病学会専門医、
日本内科学会認定医、
日本胆道学会認定指導医
「胃がん・大腸がんで亡くなる方をゼロにする」をミッションに掲げ、苦痛の少ない質の高い内視鏡検査の普及に努める
活動・社会貢献
20~30代を含む働き盛り世代や女性の大腸がん検診受診率向上にも注力。保育園との提携による検診の受診促進や、鎮静剤を用いた安心できる検査環境を提供
メッセージ
医師として「命を預かる責任」を、経営者としては「スタッフの生活を支える責任」を常に胸に刻み、「筋が通る人であり続ける」ことを信条に、日々成長を目指しています


