内視鏡検査大腸癌
大腸がん予防は「食べ方」が鍵!最新研究に基づく対策法

大腸がん予防の重要性と日本人の現状
大腸がんは日本において年間罹患者数が14万人を超え、死亡数も年間53,000人以上と、保健衛生上非常に重要ながん種となっています。特に近年では若年層の発症も増加傾向にあり、予防の重要性がますます高まっています。
私が日々の診療で特に強調しているのは、大腸がんの発症には生活習慣、特に食生活が深く関わっているという点です。適切な食事法を実践することで、大腸がんのリスクを大幅に低減できる可能性があります。
日本人の大腸がん発症リスクについて、国立がん研究センターの多目的コホート研究では、食事パターンと大腸がんリスクの関連が明らかにされています。欧米型の高脂肪・低食物繊維の食事を続けることで、大腸がんのリスクが高まることが示されているのです。
では、どのような食べ方が大腸がん予防に効果的なのでしょうか?最新の研究結果に基づいて、具体的な対策法をご紹介します。
大腸がんリスクを高める食習慣とは?
大腸がんのリスクを高める食習慣として、特に注意すべきものがあります。まず挙げられるのが、加工肉の過剰摂取です。
国際がん研究機関(IARC)は2015年に、ベーコン、ハム、ソーセージなどの加工肉について「人に対して発がん性がある(Group1)」と判定しました。これは喫煙やアスベストと同じグループに分類される重大な判定です。また、牛・豚・羊などの赤身肉についても「おそらく人に対して発がん性がある(Group2A)」と判定されています。
ただし、日本人の平均的な摂取量は世界的に見て低く、国民健康・栄養調査によると日本人の赤肉・加工肉の摂取量は一日あたり63グラム(うち、赤肉は50グラム、加工肉は13グラム)です。国立がん研究センターの研究では、この摂取範囲であれば大腸がんリスクへの影響は小さいとされています。
しかし、近年の食の欧米化により、若い世代を中心に摂取量が増加している傾向があります。特に注意が必要なのは以下の食習慣です:
- 高脂肪・低食物繊維の食事(加工食品やジャンクフードに偏った食生活)
- 赤身肉や加工肉の過剰摂取(特にソーセージ、ベーコンなど)
- 過度なアルコール摂取
- 食事のリズムの乱れ(不規則な食生活)
これらの習慣は腸内環境を悪化させ、発がん物質の生成を促進する可能性があります。特に腸内環境の悪化は、大腸がん発症の重要な要因となることが最新の研究で明らかになっています。
あなたは今、どのような食習慣を送っていますか?
大腸がん予防に効果的な食品とは
大腸がん予防には、腸内環境を整える食品の摂取が非常に重要です。特に注目すべきは食物繊維と発酵食品です。
食物繊維は腸内の環境を整え、便通を促進することで大腸がんのリスクを低減します。食物繊維を多く含む食品には以下のようなものがあります:
- 野菜類:キャベツ、ブロッコリー、ニンジン、ほうれん草
- 果物類:リンゴ、バナナ、柑橘類
- 全粒穀物:玄米、オートミール、全粒パン
- 豆類:納豆、ひよこ豆、レンズ豆
特に注目すべきは、アブラナ科の野菜(キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツなど)です。2025年8月に発表されたメタ解析によれば、これらの野菜はポリフェノール、食物繊維、ビタミンCなどを豊富に含み、大腸がん予防に効果的であることが示されています。
最も効果的な摂取量は1日あたり40~60gとされており、これを摂取することで結腸がんの発生率が最大17%減少するという結果が報告されています。
発酵食品も大腸がん予防に重要な役割を果たします。発酵食品には腸内の善玉菌を増やし、腸内フローラを整える効果があります。代表的な発酵食品には以下のものがあります:
- ヨーグルト(乳酸菌が腸内の善玉菌を増やす)
- 味噌(発酵による健康成分が豊富)
- 納豆(腸内環境を整え、消化を助ける)
- キムチ(乳酸菌が豊富で、腸の働きを活発にする)
これらの食品を日常的に摂取することで、腸内環境を良好に保つことができます。私の臨床経験からも、発酵食品を積極的に摂取している患者さんは腸内環境が良好な傾向にあります。
最新研究が示す「食べ方」の重要性
大腸がん予防において、何を食べるかだけでなく、「どのように食べるか」という点も非常に重要です。最新の研究では、食事の摂り方やタイミングも大腸がんリスクに影響することが明らかになっています。
規則正しい食事のリズム
不規則な食生活は腸内環境を乱し、大腸がんリスクを高める可能性があります。一日三食、規則正しいタイミングで食事をとることで、腸の健康を維持することができます。
私が担当した50代の男性患者さんは、不規則な食事時間と夜食の習慣がありました。大腸ポリープが見つかった際に食生活を見直し、規則正しい食事に切り替えたところ、次回の検査では腸内環境の改善が見られました。
食事と食事の間隔を適切に空けることも重要です。最低でも4時間は間隔を空け、腸に休息の時間を与えることで、腸内環境の改善につながります。
よく噛んで食べる習慣
食物を十分に咀嚼することは、消化を助けるだけでなく、腸への負担を軽減します。一口あたり30回程度噛むことを意識すると、食べる速度が自然と遅くなり、満腹感も得やすくなります。
早食いの習慣がある方は、意識的にゆっくり食べることを心がけましょう。食事の時間を20分以上確保することで、消化吸収がスムーズになります。
食物の組み合わせ
食物繊維を多く含む食品と発酵食品を一緒に摂ることで、相乗効果が期待できます。例えば、味噌汁とサラダを組み合わせる日本の伝統的な食事パターンは、腸内環境を整えるのに理想的です。
国立がん研究センターの多目的コホート研究では、伝統的な日本食パターン(魚、野菜、海藻、大豆製品が豊富)を摂取している人は、大腸がんリスクが低い傾向にあることが報告されています。
このように、食事の内容だけでなく、食べ方にも注意を払うことで、大腸がん予防効果をさらに高めることができるのです。

腸内細菌と大腸がんの最新知見
2025年5月に国立がん研究センターから発表された最新の研究結果によると、日本人大腸がん患者の約5割に、特徴的な腸内細菌による発がん要因が発見されました。
この研究は日本を含む11か国の国際共同研究で、981症例の大腸がんを対象とした全ゲノム解析が行われました。その結果、日本人症例の5割に、一部の腸内細菌から分泌される「コリバクチン毒素」による変異パターンが存在することが明らかになりました。
特筆すべきは、このコリバクチン毒素による変異パターンが、高齢者症例(70歳以上)と比べて若年者症例(50歳未満)に3倍多い傾向がみられたことです。これは、近年問題視されている若年者大腸がんの重要な発症要因である可能性を示唆しています。
この研究結果は、腸内環境の重要性をさらに裏付けるものです。腸内細菌のバランスを整えることが、大腸がん予防において極めて重要であることを示しています。
腸内環境を整える具体的な方法
腸内環境を整えるためには、以下の点に注意しましょう:
- プレバイオティクスの摂取:食物繊維を多く含む食品を積極的に摂る
- プロバイオティクスの摂取:発酵食品を日常的に食べる
- 抗生物質の過剰使用を避ける:必要な場合のみ適切に使用する
- ストレスの管理:ストレスは腸内環境に悪影響を与えるため、適切に管理する
- 適度な運動:適度な運動は腸の働きを活発にする
私の診療経験からも、これらの点に注意して生活習慣を改善した患者さんは、腸内環境の改善とともに全体的な健康状態も向上する傾向が見られます。
大腸がん予防のための総合的アプローチ
大腸がん予防には、食生活の改善だけでなく、総合的なアプローチが必要です。以下に重要なポイントをまとめます。
定期的な検診の重要性
大腸がんは早期発見・早期治療で高い確率で治癒が期待できます。40歳を過ぎたら、症状がなくても定期的に大腸がん検診を受けることをお勧めします。特に家族に大腸がんの既往歴がある方は、より早い段階からの検診が重要です。
当院では最新の内視鏡機器を導入し、苦痛の少ない大腸カメラ検査を提供しています。鎮静剤を使用することで、リラックスした状態で検査を受けることができます。
運動習慣の確立
適度な運動は大腸がんの予防効果が期待できます。ウォーキングやジョギングなどで体を動かす習慣をつけましょう。日常生活でも、エレベーターやエスカレーターではなく階段を使うなど、意識的に体を動かす機会を増やすことが大切です。
禁煙と節酒
喫煙や過度の飲酒は大腸がんのリスク要因です。禁煙し、アルコールは適量にとどめることが重要です。飲酒する場合は、日本酒なら1合程度、ビールなら中瓶1本程度を目安にしましょう。
適正体重の維持
肥満は大腸がんのリスク要因の一つです。BMI(体格指数)が25を超える場合は、食事と運動で適正体重を目指しましょう。急激な減量ではなく、緩やかに体重を減らすことが重要です。
私が診療している60代の女性患者さんは、適切な食事管理と運動習慣の確立により、半年かけて5kgの減量に成功しました。その結果、大腸の状態も改善し、以前見られていた軽度の炎症も軽減しました。
まとめ:大腸がん予防のための食生活改善ポイント
大腸がん予防のための食生活改善ポイントを以下にまとめます:
- 食物繊維を積極的に摂取する:野菜、果物、全粒穀物、豆類を毎日の食事に取り入れる
- 発酵食品を日常的に食べる:ヨーグルト、味噌、納豆、キムチなどを積極的に摂取する
- 加工肉や赤身肉の摂取を控えめにする:ハム、ソーセージ、ベーコンなどの摂取頻度を減らす
- 規則正しい食事のリズムを保つ:一日三食、決まった時間に食事をとる習慣をつける
- よく噛んでゆっくり食べる:一口30回を目安に、食事時間は20分以上確保する
- アルコールは適量にとどめる:過度の飲酒を避ける
- バランスの良い食事を心がける:日本の伝統的な食事パターンを参考にする
大腸がんは生活習慣の改善によって予防できる可能性が高いがんです。特に食生活の見直しは、最も効果的な予防策の一つです。
最後に強調したいのは、定期的な検診の重要性です。食生活の改善と並行して、定期的な大腸がん検診を受けることで、万が一がんが発生していても早期発見・早期治療が可能になります。
大腸の健康は全身の健康につながります。この記事で紹介した食べ方のポイントを日常生活に取り入れ、健やかな腸を維持しましょう。
大腸がん予防や内視鏡検査についてさらに詳しく知りたい方は、ぜひ当院にご相談ください。皆様の健康維持のお手伝いをさせていただきます。
詳細はこちら: 浜野胃腸科外科
著者プロフィール
浜野 徹也(はまの てつや)
現職
浜野胃腸科外科医院 副院長(2015年就任)
東京女子医科大学八千代医療センター 内視鏡科 非常勤講師
東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科 非常勤医師
千葉県がんセンター 消化器内科 非常勤医師
研修・経歴
立川相互病院(初期研修)→東京女子医科大学八千代医療センター(総合救急診療科 → 内視鏡科)
その後、千葉県がんセンターなどで非常勤として消化器内視鏡診療に従事
専門・理念
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、
日本消化器病学会専門医、
日本内科学会認定医、
日本胆道学会認定指導医
「胃がん・大腸がんで亡くなる方をゼロにする」をミッションに掲げ、苦痛の少ない質の高い内視鏡検査の普及に努める
活動・社会貢献
20~30代を含む働き盛り世代や女性の大腸がん検診受診率向上にも注力。保育園との提携による検診の受診促進や、鎮静剤を用いた安心できる検査環境を提供
メッセージ
医師として「命を預かる責任」を、経営者としては「スタッフの生活を支える責任」を常に胸に刻み、「筋が通る人であり続ける」ことを信条に、日々成長を目指しています


